ついにこの日が来てしまった。今日は決戦
の日。緊張のあまり、朝から何を食べても美
味しくない。不安がつのり、気分は沈みっぱ
なしであった。
ここは新宿のとある高層ビルの一室。部屋
の中はアコーディオンカーテンで仕切られて
いて、こちら側に男性達が、向こう側には女
性達がいる。みんな出会いを求めてここ、カ
ップリングパーティーの会場に集まって来て
いる。私も友人とともに参加した男のひとり
である。実は、私はこういったパーティーに
参加するのは初めてではない。過去何度か清
水の舞台から落っこちたつもりで(?)挑戦
してきたが、パーティーの1週間も前から緊
張しはじめ、女性と話すことに自信がないた
めに、楽しい会話ができず、当然カップルに
もなれなかった。その時は「もう二度と参加
しないぞ といつも心に誓うのだが、しばら
くするとそのことをすっかり忘れてしまい、
友人とその手の話が盛り上がると、また参加
を決めてしまうのであった。今回もまったく
同じ状況で、部屋に入ってから開始時間を待
つ間、ものすごい緊張感が私を襲い、気が遠
くなって卒倒しそうであった。へなちょこな
私は、本来の目的も忘れ、早くこの場から逃
げ出したい自分を押さえるのがやっとだった。
そんな自分を見て友人は ここまで来たらも
う覚悟をきめろよ と厳しいお言葉。気を紛
らわすために周りを見渡すと、他の人たちは
皆落ち着いている。すべての面で私より上に
思えてしまう。「いやいや、他の人は関係な
い。これは自分との闘いなんだ」と自分自身
に言い聞かせ、女性と何を話すかだけを考え
ることにした。
自分との葛藤が続く辛い時間が過ぎ、やっ
と女性の司会者が部屋に入って来た。いよい
よパーティーが始まるようだ。すると、司会
者は徐にカーテンを開け始めた。
「いよいよご対面だ」そう思うと緊張は頂点
に達し、自分の顔が真っ赤になって行くのが
よく分かった。とても恥ずかしくて顔が上げ
られない。パーティーの説明が続く中、やっ
とのことで顔を上げ、前方に座っている女性
に目を向ける。やや緊張の面持ちである。「
やっぱりみんな不安なんだな」と思うと、少
し気持ちが落ち着きはじめ、女性達を見渡す
余裕が出てきた。多分、説明も聞かずにキョ
ロキョロしているのは私だけだったと思う。
ほんとゲンキンな奴である。
説明が一通り終わり、すぐにトーク開始。
すべての男性と女性が1分間ずつお話をする
のである。ここまで来ると、もうどうにでも
なれと肝を据えることができ、落ち着いて女
性の横に座る。「はじめまして。よろしくお
願いします」、「はじめまして」と簡単な挨
拶を交わし、プロフィールを記入したアンケ
ート用紙をお互い交換する。最初の女性はお
嬢様タイプのキレイな人。なんだかうれしく
なる。が、さあ困った。はなから何を話せば
いいのかまったく分からない。沈黙に耐え切
れず、プロフィールを参考に必死に話のネタ
を探した。そしてお得意の事情聴取攻撃。以
下順番に私が刑事で、女性が犯人(?)のよ
うである。「苗字は何と読むんですか?」、
「○○です」、「趣味は楽器演奏ですか。ど
んな楽器を弾くんですか?」、「ピアノです」
、「休日は何をして過ごすのですか?」、「
本を読んだり、散歩をしたり。あとピアノを
弾いています」などなど。
う〜ん会話がまるで盛り上がらない。言葉
のやり取りが行って来いで終わってしまうの
である。私の会話が下手なために、相手のこ
とがよく分からない。女性の方も同じだろう。
やがて相手も飽きて来たようで、お互い相手
のプロフィールを見つめたまま石のよう黙り
こくってしまい、そのまま時間となった。「
俺の印象かなり悪いだろうな」。キレイな人
なだけにショックが大きい。でも落ち込んで
いる暇はない。すぐに次の女性へ。同い年く
らいの落ち着いた人。あまり人のことは言え
ないがちょっと、年齢を感じさせる。
「趣味の話で会話が弾むようにがんばろう」
と心に決めるも、相手の趣味はドライブ。
ペーパーの私にとっては避けたい(苦手な)
ジャンルであった。「趣味はドライブですか。
どこに行きましたか?」、「いろいろなとこ
ろに行きます。運転が好きなので」、「○○
さん(私のこと)はクルマの運転はしますか?」
、「いえ、ほとんど運転しないです。年に数
回、旅行に行った時くらいです」。「そうで
すか。私はクルマ好きの人がいいんです。こ
れからはクルマの運転くらいできるようにし
たほうがいいですよ。結婚すれば必ず必要に
なるし」。さすがの私も「ここでそんなこと
を言われても」と、途中から話をする気力が
失せてしまった。この後も十数人の人とお話
をしたが、相変わらず事情聴取のような会話
を繰り返すだけで、ちっとも相手のことが分
からないし、自分をアピールすることもでき
なかった。中にはまったく私に興味がないこ
とを態度に表す人もいて、いいかげん自分が
嫌になっていた。もう疲れ果てて、頭も痛い。
「早く終わらないかな」と半ば諦めかけて最
後の相手に望む。しかし、相手を一目見るな
り、元気が一気に出てきた。ミニミニサイズ
のカワイイ人。自分の好みのタイプである。
何を話そうか考えていると、相手から話かけ
てくれた。「趣味は何ですか?」。「野球と
カラオケです。どちらも下手ですけど」と私。
「私は休みの日にテニスをしています。カラ
オケにもよく行きますよ」と相手も会話に参
加してくれる。私からの質問に対して、言葉
が倍になって返ってくる。しゃべり方や物腰
が柔らかく、どちらかというとなごみ系タイ
プの人だった。自分なりに一番楽しい時間が
過ごせたと思う。あっとゆう間に1分間が過
ぎてしまった。
次は、男性が自由に女性を3人まで選び、
1人3分までで3回フリートークを行なう。
が、一番気になる人のところに行く勇気が出
ない。もたもたしていると、あっという間に
5〜6人の男性に囲まれていた。一回目は諦
めて、一休みすることにした。すると隣の席
に、同じ様にあぶれてしまった男性が座って
きて、なぜか他のパーティーや世間話で盛り
上がる。「なんか違うぞ」と思いながらも3
分が経ってしまった。2回目のトークでも結
局行けずじまい。このままでは悔いが残ると
思い、3回目になってやっとその人のところ
に行くが、5人の中の1人になってしまい、
なかなか話し掛けられない。他の男性との会
話をうなずきながら聞いているしかなかった。
と、そこに友人が椅子を持って乱入して来た。
座るなり友人は、その女性に「こいつをどう
にかしてやってくださいよ」といきなりの一
言。女性は笑っていたが、「何しに来たんだ
よ。まったく」と私は呆れてしまった。でも
気が付けば、友人はこれをきっかけに会話に
参加している。今度は、逆に関心してしまう。
横道に逸れながらも、最後のトークも終わり、
いよいよ告白タイムとなる。
告白と言っても女性に直接お願いするので
はなく、女性の番号を用紙に書いて投票する
ようになっていた。フリートークでもほとん
ど話せなかったので、カップルになれる可能
性はほとんどなかった。でも後悔したくなか
ったから、私は一番気になるカワイイ女性に
決めた。。やがて集計が終わり、女性からの
返事がある人の番号が読み上げられる。“も
う一度お話しましょう”、“お友達からお願
いします”というカップルが7組成立した。
そして最後に、“喜んでお付き合いをお願い
します”というカップルが1組成立したと司
会者がうれしそうに言う。「カップルは男性
3番さんと女性10番さんです」。
「あれ、3番は俺だ」。ほとんど他人事であ
った私にとっては、信じられないことが起こ
ったために、そのあと数秒間動けなかった。
気を取り直して女性のところに行き、握手を
交わす。
ここでパーティーもお開きとなった。
時間が遅かったために、照れながらも、女
性と一緒に帰ることにした。駅までの道、と
りとめのない話をしながら、すごく幸せな気
分であった。 今年のクリスマスはひとりぼ
っちじゃないぞ と自分勝手な妄想が浮かん
でくると、ついつい顔がにやけてしまうので
あった。
翌日、また話しがしたかったので、勇気を
出して携帯の番号にかけてみた。呼び出すの
だが、一向に出ない。しばらくすると切れて
しまった。3回くらいかけたがまったくつな
がらず、最後には切れてしまう。「今日は忙
しいのかな」と思い、改めて次の日にかけ直
す。が、また切れてしまう。そんなことが数
日間続き、もはや諦めるしかなかった。相手
の女性はもう一度考え直し、やっぱり私のこ
とが嫌になってしまったのかもしれない。自
分のことを振り返るとそう思えてならない。
それならば電話に出て、はっきりと理由を言
って欲しかった。
なんともやりきれない気分の私は、一緒に
参加した友人と酒を飲み、クダをまくしかこ
のやり場のない気持ちのはけ口がみつからな
かった。