今夜は一人で飲みたい
そんなときに行ける店が私にはある。
それは繁華街から少しはずれた
一方通行の通りにひっそりとかくれている。
ドアを開けると左手にカウンターがあり
カウンターの奥からマスターが(何しにきや
がったこんちくしょうと思いながらも)
「いらっしゃい」とうつむきかげんで答える。
古い板張りの床を軋ませながら席につく
マスターが(バカヤローボロイんだからそっ
と歩かないと床が抜けるじゃねぇかと思いな
がら)
水とおしぼりをテーブルに慣れた手つきで置

いつものように「ビールお願いします」とオ
ーダーする
マスターが(おめぇの声は聞き取りづれぇん
だよ,たまにはボトル入れろよと思いながら)
「はい」といってジョッキをだしサーバーか
らビールをそそぐ
マスターが生ビールを置きにくる瞬間を逃さ
ずつまみのオーダーする
私の最近のマイブームはガーリックピザであ

マスターがオーダーを聞き(またかよバカの
一つおぼえだなぁと思いながら)
「ガーリックピザね」といって厨房に消えて
いく
ここにはもう10年以上通っているだろうか
たしか昔のマスターには髪の毛がふさふさあ
り,髭が無かったはずだ
そんなこと思いながら昔の記憶がなんとなく
よみがえってきた
そう昔はちゃんとウエイトレスがいて
殺風景なこの店に少しの明るさを与えていた
賄い食でサンドイッチと牛乳飲んでた娘
自分の所属する劇団のパンフを置いてた娘
会計を間違えてマスターに叱られていた娘
それぞれに個性豊かに精一杯働いていた
それがいつのまにかマスターが一人でやるよ
うになってしまった
「ヤ」のつく自由業の方々が押し寄せるよう
になって
何故ウエイトレスを雇えなくなったか
耳をすまして欲しいマスターの本当の心の叫
びが聞こえる
(そうなんだよね。なっつたって本物だから
さぁ。万が一のことがあったら危なくって,
だから雇えないよね。
ついでに聞いてくれる?
あいつらさぁ料金踏み倒すわけじゃないけど
コーヒー代つけにしてるんだよね。せこいよ
ね〜。
酒は飲まないんだよ。何でかってゆうとさ,
奴らここで仕事してるんだよ。
たまに携帯の会話がさぁ聞こえちゃうんだけ
どさぁ
「社長おぅ〜***だけど」野太い声でさぁ
相手を威嚇するようにしゃべってんだよねぇ。
あれやられると他のお客さん帰っちゃうんだ
よ。
でもさぁ一番困るのが「預かり物」なんだよ
ね。え?中身何かって?
冗談じゃないよ見られるわけ無いじゃないヤ
バイ物だったらとばっちりくって店潰れちゃ
うもの!
だからさぁ早く取りに来てくれってきがきじ
ゃないよ。
それとさぁ,電話で「***いる」とか問い
合わせが多くてさぁ。うちは待合いじゃない
っつんだよね。)
そうかマスターの髪の毛が抜け落ちる原因も
あったのか
二杯目のビールを飲み終え,席を立つ。
レジをすませ「どうも」という挨拶で私の一
人の時間が終わる。




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